歳時記

うっかりの失言

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テレビを観ていて、やたら「転職サイト」の宣伝が目につく。

私など、社会に出たときから職業は「フリー」なので、転職という感覚がピンとこない。

定期収入はもちろんない。
ボーナスとはまったく無縁。

「お勤めしている人はいいわね」
若いころ、勝手気ままに生きる私に、愚妻が嫌味を言ったものだ。

だが、確かにフリーではあるが、編集企画を業務とする法人を設立して30年になる。
私は社長なのだ。

そう言うと、
「あなたしか社員はいないじゃないの」
愚妻はニベもない。

「代表取締役」という肩書きの名刺を持ってはいるが、ここ20年、その名刺を出したことがない。

何のための法人なのか、さすがに私も首をかしげるが、顧問税理士に言わせば、
「法人にとっては赤字も財産ですよ」
と言う。

儲かっても、赤字と相殺すれば税金がかからないというわけだ。

だが、儲かればの話。
このご時世、そんなウマイ話があるわけもない。
儲からなくてもいいのだ。

「いいか、人生はカネじゃない。健康でいられることに感謝しろ」
いつもの口癖で、愚妻についそう言ってしまった。

「ちょっと!」
愚妻が柳眉を逆立てる。
「私は乳ガンなのよ。何が健康に感謝ですか!」

うっかりしていた。
スマン、スマンと平謝りである。

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