「生き方」の極意

情勢混沌たるとき

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混沌として、先が見通せない時代に、どう処するべきか。
心構えを、拙著『武道の実戦心理術』(KKベストセラーズ)から転載。

『情勢混沌たるときは、低くき姿勢から抜刀すべし』

 

暗い場所では、居合いは姿勢を低くして抜刀する。
下から仰ぎ見るほうが、敵の姿を見分けやすいからである。

軍隊の斥候は、低地から低地への移動が原則だ。
西部劇を思い起こせばわかるように、禿げ山から見下ろすインディアンと、低地から尾根を見上げる騎兵隊とでは、どっちが相手を見つけやすいだろうか。

上から見下ろすと、岩やサボテンなど障害物が目に入ってしまうが、尾根は空を背景とするだけだから、下から見上げると、インディアンの姿はくっきりと見えるのである。

会社の人事や将来、あるいは人間関係など、見通しがはっきりしない場合、私たちは背伸びして見極めようとする。

同僚と情報交換したり、上司にカマをかけたり、バタバタと動き回る。その結果、憶測が噂を呼び、噂があたかも既成事実であるかのようになって、判断を誤ることになる。

インディアンが禿げ山から見下ろすようなもので、サボテンと騎兵隊を見誤るというわけである。

上から見下ろすのは、兵法からしても間違いなのだ。
背伸びして見ていいのは、日差しが明るいときーーつまり会社が伸びているときで、会社が混沌とした状況にある「暗がり」では、姿勢を低くしなければならない。
暗がりで敵と対峙する居合い術と、同じなのだ。会社の情勢を探るのだから、軍隊の斥候がそうであるように、低地から低地に移動すべきなのである。

具体的に言えば、
「身を屈(かが)め、五感を総動員して情勢の変化を読み、相手の出方をうかがえ」
ということだ。

「じっと我慢の子でいろ」
ということだ。

右か、左か、上かね下かーー。
気のはやりを抑え、身を屈めて虎視眈々と周囲をうかがう。
そして相手が動けば、あるいは情勢の変化を察知するや、電光石火の抜き打ちで一刀両断、真っ二つにする。この気迫をもって対峙できるか否かが、勝敗を決するのである。

人生、何事においても、上から見おろすばかりが能ではない。
ときにうずくまって見上げれば、ことの本質がよく見えてくるものだ。

情勢に関係なく、やみくもに上に上にあがりたがる人間を、
「バカの高上がり」
と言うのだ。

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