鏡で自分の顔をじっくり見ることはない。
頭を剃るときは風呂場で鏡に向かってはいるが、漠然と向かっているだけで、顔を眺めているわけではない。
で、今夕。
道場の仕事場で電話を受けているときだ。
たまたま立ち上がっていいたので、電話しながら何気なく鏡を覗き込んで愕然とした。
眉毛の多くが白くなっているではないか。
知らなかった。
電話が終わると、すぐに愚妻に電話した。
「おい、わしの眉毛が白くなっているぞ!」
緊急報告したところが、
「そうよ。年寄りらしくていいんじゃない?」
こともなげに言ったのである。
「なぜ、言わぬ」
「自分の眉毛でしょ。自分で見なさいよ」
言ってから、愚妻も言いすぎたと思ったのか、
「お坊さんやっているんだから、白くなったほうがカッコいいわよ」
ヨイショしたつもりだろうが、白い眉のどこがカッコいいのだ。
たまには鏡を見るものだと思いつつも、顔だけは何か写さなければ見ることができない。
太古の時代、人間は水面に映る自分の顔を見て何と思っただろうか。
「何だ、こりゃ?」
そう思ったはずだ。
かくして、私は古代人に思いを馳せるのである。