二階で仕事をしていて、コーヒーでも飲もうと自室を出ると、ちようど愚妻が階段を上がってきた。
顔を見て、私はひっくり返りそうになった。
透明のラミネートフイルムで、顔をすっぽり覆っているのだ。
「どう、これ。簡単にできるわよ」
満面に笑みをたたえ、得々と説明する。
どうやら顔を覆う医者の医療用防具をテレビニュースを見て、自作を思いついたようだ。
私は知らなかったが、ラミネート加工する器具が我が家にはあるそうで、透明のフイルムも当然ある。
「あっ、これだと思ったのよ」
ヘアバンドにフイルムを装着して完成というわけである。
「非常時なんだから、お医者さんも〝足りない、足りない〟なんて言ってないで、こうやってつくればいいのよ」
なるほど一理あると感心しつつ、
「で、おまえはそれを装着してスーパーへ買い物に行くのか?」
気になる質問をした。
「まずかいかしら?」
「まずくはないが、人が寄りつくまい」
しばし考えてから、
「じゃ、一石二鳥じゃない?」
私はもともとテレワークなので自宅に籠もるのは何ともないが、愚妻はヒマでしょうがないのだろう。
小人は閑居して不善をなし、愚妻は閑居して余計なことをするのだ。