日帰り温泉の露天風呂に浸かっていると、トンボが数匹、俊敏な動きで飛び回っている。
方向転換するときのスピードたるや、唸るほどの早さで、見ていて厭きない。
そう言えば、トンボは別名「勝ち虫」と呼ばれ、武士にこよなく喜ばれたことを思い出した。
害虫を補食し、前にしか進まないことから「不退転」の精神を現しているというわけだ。
ずいぶん前になるが、呉服屋でトンボの図柄があしらった帯を進められたときに、ご主人が「勝ち虫」の話しをしてくれた。
戦国時代、武士は鎧や兜、陣羽織など武具にトンボの図柄を装飾したとか。
だが、露天風呂でトンボの飛翔を眺めていて、ふと、
「前にしか進まないのはトンボだけか?」
という疑問がわいてきたのである。
セミだって前にしか飛ばないではないか。
蝶々だってヒラヒラ飛んではいるが、バックはしない。
トンビが後ろ向きに飛んでいるのを見たことがない。
なぜ、トンボだけが不退転の「勝ち虫」なのか。
気になり、早々に湯船を出て、いまパソコンで調べているが、いまひとつよくわからない。
仕事をしなくてはならないのに、余計なことが気になり、いたずらに時間が過ぎていくのである。