歳時記

「温泉」と人生訓

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 愚妻が、近所の日帰り温泉へ行くのを、週2日にすると言い出した。
「それがいい。朝寝、朝酒、朝湯で身上をつぶしたのは小原庄助さんだ。おまえはまだ朝寝と朝湯だからいいが、これに朝酒が加わったら・・・」
「うるさい!」
 柳眉を逆立てた。
 愚妻が言うには、朝7時に出かけるには、それまでに掃除や洗濯をすませておかなければならず、それが楽ではないのだそうだ。
 朝風呂に浸かるために疲れる。
 朝風呂に浸かるための準備が負担になる。
 朝風呂に浸かるために寝不足になる。
「アホの見本だな」
「そうなのよ」
 と、珍しく納得している。
 どんなに楽しいことも、ずっと続けていれば、必ず虚しくなるものだ。
 漢武帝の言葉に、
『歓楽(かんらく)極(きわま)って哀情(あいじょう)多し』
 というのがある。
「楽しみや喜びが極まると、悲しみや侘(わび)しさがやってくる」
 と言う意味だ。
 人生の苦楽は振り子になっている。
 振り子が「楽」に振れ、振り切ったら一転、対極の「苦」に振れていく。
 だから、振り切ったらダメなのだ。
 私は故事ことわざが大好きで、著書もある。
 名句・名言に接すると、いろんなことを考えさせられる。
「温泉は週に2日にするわ」
 という愚妻の溜め息に、『歓楽極って哀情多し』という故事を重ねると、具体的でわかりやすい人生訓に昇華するのだ。

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