このところ、私は愚妻に英語で話しかけている。
と言っても、英会話の「自動変換器」を通してである。
愚妻に英会話を仕込んでやろうという、これは私のやさしさである。
日本語で言えば即座に英語に直して発声してくれるので、実に便利だ。
今朝、日帰り温泉へ出かけようとしている愚妻に、
「紅茶!」
と、「自動変換器」を通して命じると、
「ティー、プリーズ!」(英語です)
と、女性の声で発音してくれる。
すると愚妻がジロリとニラんで、
「そんな英語、私だってわかるわよ」
憎まれ口を叩くのだ。
このところ海外旅行にはまったく興味がなく、私は温泉でごろごろしているほうがいいのだが、英会話で遊んでいると、
(行ってみようかな)
という気になる。
「今年はどこか行くか?」
愚妻に提案すると、
「パリなんかいいんじゃない?」
こともなげに言う。
「バカ者、パリは英語じゃない」
愚か者が、何のために私がわざわざ英語の「自動変換器」を買ったと思っているのか。
にわかに海外旅行の気持ちは萎(な)えてしまい、愚妻は意気軒昂として日帰り温泉へ出かけて行くのだ。
英会話の「変換器」
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