歳時記

一人でメシを食いに行く

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 いま、九十九里の仕事部屋である。
 一昨日、花火を見たあと、一人でやってきた。
 調子に乗って日帰り温泉に浸かっているうちに、仕事が溜まってしまい、終日、部屋に籠もっている。
 それでも当然ながら腹は減る。
 で、昨夕、ソバ屋へ出かけると、
「あら、奥さんは?」
 と女将が聞く。
 先月は魚料理の店で、
「あら、奥さんは?」
 と聞かれた。
 二度目は、
「奥さん、具合が悪いわけじゃないですよね」
 と小声で聞かれた。
 三度目は、何も聞かなかった。
 何だか女房に逃げられた亭主みたな気分で、落ち着かないのだ。
 それで、昨夕はソバ屋にしたところが、
「あら、奥さんは?」
 同じことを聞かれた。
 女房に逃げられたと思われてはカッコ悪いので、魚料理の店に告げたのと同じことを言う。
「家で飼っているバカ犬の具合が悪くてね。カミさんは、その介護なんだ」
「それは大変ですね」
「いやいや、私を介護する練習にちょうどいいんですよ」
「アッハハ」
 とは笑わず、女将は曖昧な笑顔を見せていた。
 食事に行かず、コンビニで何か買って食べようかとも思うが、初老の男が一人でやって来て、おにぎりや弁当を買うのは、それはそれでカッコ悪いような気がするのだ。
 そんなこんなで、一人暮らしはいろんな意味で楽ではなかろうと、いま考えているところなのである。

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