歳時記

夫婦とは、何とミステリアスなものか

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 愚妻が所用で外出。
 昼前からポツリと雨。
 道場の仕事部屋で雑用をすませ、雅楽の稽古に出かけようとしたところへ、愚妻から電話。
「そっち、雨が降ってる?」
「降っておる」
「洗濯物を干してあるんだけど、取り込めるかしら?」
 自慢ではないが、私は結婚して38年間、洗濯はもちろん、干したものを取り込んだ経験がないのだ。
「乾いておるのか?」
「今朝、洗濯したのに乾いているわけないでしょ」
「では、濡らせておけ」
「ちょっと、そんなこと言わないで、家に寄って取り込でくれればいいじゃないの」
 以下、険悪なやりとりは割愛。
 私は白旗を上げ、自宅に寄って洗濯物を取り込んだ。
 結婚38年にして経験する初めてのこと。
 記念すべき日になったのである。
 午後9時前、雅楽の稽古から帰宅したが、愚妻が感謝の言葉を口にしない。
 督促するのは下品なので、気がすすまなかったが、
「わしは今日、洗濯物を取り込んだぞ」
 と注意を喚起すると、
「それはそれは、ありがとうございました」
 本気か、口先か。
 いまだに愚妻の心が読めないでいる。
 夫婦とは、何とミステリアなものであることか。

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