歳時記

病院で〝火花〟を散らす

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 朝、いつものようにWebでニュースをチェックすると、『どんと祭り』のことが話題になっていた。
『どんと祭り』とは、門松やしめ縄などの正月飾りなどを神社に持ち寄って燃やすことで、この火にあたると、その年は病気にかからないとされる。
「安易すぎるではないか」
 私が『どんと祭り』にケチをつけると、
「無病息災を願う気持ちのあらわれだから、いいじゃないの」
 愚妻が、私にケチをつける。
「バカ者。そんなに健康が大事なら、もっと日常生活に気をつけるべきではないか。美食飽食、エレベータにエスカレータ。さらに不平不満に嫉妬(しっと)と嫉(ねた)み。それでいて健康を願うなど、ちゃんちゃらおかしいのだ」
「そんなことはいいから、さっ、行くわよ」
 健康を話題にしつつも、実は今日は、私と愚妻、そして87歳の映芳爺さんと3人で大学病院へ行く日なのだ。3人とも高血圧で、同じ医者にかかっている。畑に行くときも3人、病院も3人というわけだ。
 3人一緒の病院通いは、すでに5年になるだろうか。
 毎回、1人ずつ〝なじみの医者〟に血圧を測ってもらうのだが、これに3人は〝火花〟を散らすだ。
 まず、私の血圧測定。
「エー、上が128の下が89。いいですねぇ」
 私がニッコリ笑う。
 次いで、映芳爺さん。
「エー、上が124の下が85」
「ウッフフフ」
 映芳爺さんが会心の笑みをもらす。
「じゃ、奥さん」
 医者にうながされて、愚妻が腕をまくる。
 このときの愚妻の顔は、試験に臨む受験生のごとく、険しく引き締まっている。
「エー、上が122の下が84」
 愚妻は満面に笑みを浮かべ、「どうだ」といわんばかり私たちを見る。
 こうした〝さや当て〟が延々5年も続いているのである。
 で、今日、会計をすませたところで、
「あら!」
 と声をかけられた。
 以前、わが家の近所に住んでいたご夫婦にバッタリ会ったのである。
 おふたりとも60代半ば。
「お久しぶり。お元気ですか?」
 奥さんが言い、
「ええ、おかげさまで元気でやっています。みなさん、お変わりございませんか?」
 と愚妻が返したところで、
「ちょっと待った」
 私が口をはさんだ。
「お互い、病院で会っているに、〝お元気ですか〟はヘンじゃないか?」
「あら、ホント」
 ご夫婦は笑ったが、愚妻は私をキッとニラむ。
 ホントのことなのに、もの言えば唇寒しの病院であった。 

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