歳時記

愚か者に、深い溜め息

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 中国古典の『菜根譚』に、
《花は半開を看(み)、酒は微酔(びすい)に飲む》
 という言葉がある。
 花を見るのなら五分咲きを楽しみ、酒を飲むならホロ酔いで盃を置くのがよい、という意味から転じて、
「何事も、ほどほどをもって最上とする」
 という教えだ。
 ところが人間は、トコトンまで貪(むさぼ)ろうとする。
 食事なら、満腹になるまで箸を置こうとしない。
 健啖家といえば聞こえがいいが、要するに、ただの大食漢に過ぎず、犬やネコと同じなのだ。
「だから」
 と、私が愚妻にさとす。
「人生、不足をもって幸せと言うのだ」
「じゃ、私ほど幸せな人間はいないってことね」
 愚かにも、皮肉を言って喜ぶのである。
 今日は、コンサルタント会社へ出かけ、会員向けのCDを制作するため、処世術について話しをしてきた。
 担当者は熱心に聞いてくれ、
「とても参考になりました」
 と言ってくれた。
 夜は編集者と酒席で打ち合わせをし、私の人生観を語ると、
「とても参考になりました」
 と言ってくれた。
 しかるに我が家のバチ当たりはどうだ。
 私のありがたい言葉に耳を貸さないばかりか、皮肉で応じるのだ。
 私はただ、深い溜め息をつくばかりなのである。  

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