歳時記

「シェアリング」という私のトラウマ

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 ルームシェアが人気だそうである。
 ルームシェアとは、2DK程度のマンションに、友人と家賃を折半して住むことを言う。
 一人では住めない広いマンションも、ルームシェアなら住めるというわけで、いま人気なのだそうだ。
 だが、人気のヒミツは、「ルームシェア」というネーミングにあると、私はニラんでいる。
 かつて、複数の人間が一つ屋根の下で暮らすことを「同居」と言った。
「ルームシェア」は「同居」と同義語なのだが、「同居」は何となくプアな響きがある。
「あたしさ、A子と同居してるの」
 と言うよりは、
「あたしさ、A子とルームシェアしているの」
 と言ったほうが、なるほどオシャレだろう。
 ここに、まやかしがある。
 実を言うと、私はこの「シェアリング」という言葉にひどい目にあったことがあるのだ。
 かれこれ20年以上も前になるが、私が仲間と編集企画会社をやっていたときのことだ。
 某クライアントに企画を提出した。
 当時の金でン千万円のプロジェクトだ。
 企画書を読んだ会長が、
「この企画、うまくいくかね?」
 と念を押してきたので、
「もちろん」
 私が胸を張って返事すると、
「わかった。じゃ、バードンシェアリングでいこうじゃないか」
 会長がニッコリ笑って言ったのである。
 私はバードンシェアリングの意味がわからず、なんとなく語感と会長の表情から、私はこう解釈したのだ。
「いい企画を立てたので、おまえの会社に分け前をシェアしてやろうじゃないか」
 長くなるのでこれ以上は書かないが、あとになってバードンシェアリングが「費用負担」の意味であることを知って、大騒動になるのである。
 それがトラウマとなって、以来、「シェア」という言葉を聞くと眉にツバをつけるようになったという次第。
 友人との「同居」を「ルームシェア」と呼びかえるなら、親と同居して面倒を見る場合は、「ハウスシェア」なんてどうか。
 二世帯住宅は「シェアハウス」。
「共働き」と言えば何となく生活臭が漂うが、「ライフシェア」なんて言えばオシャレじゃないか。
 おっ、「ワークシェアリング」なんてカッコいいぜ!
「バードンシェアリング」のトラウマを引きずる私は、そんな嫌みの一つも言いたくなるのである。

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