歳時記

咀嚼(そしゃく)100回、哲学に至る

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 最近、食事は、よく噛んで食べるように心がけている。
 なぜかと言うと、私は〝早喰い〟だからだ。
 私が食事に一緒に行ってイライラするタイプは、メニューを眺めてばかりでなかなか注文が決まらない人間と、食べるのが遅い人間だ。
 だから私は、たとえば焼鳥屋や串揚げ、お好み焼き屋などへ行けば、パッとメニューを広げて、
「こっからここまで」
 と素早く、そしていい加減に指さす。
 そして、ムシャムシャと食べて、
「さっ、帰るぞ!」
 だから、女房と昼飯を食いに近所のファミレスに行こうものなら、たいてい女房を残して私は先に帰るのである。
 それがなぜか、ゆっくりメシを食おうという気になってきた。
 これといって理由があるわけではなく、いつもの気まぐれである。
 ものの本に70回咀嚼せよ、と書いてあったので、ひと口70回を励行している。
 すると、どうだ。
 意外な発見があるのだ。
 ムシャムシャ、モゴモゴやっていると時間がたたない。
 で、いま口にしている食物について思いがよぎる。農薬のこと、食品偽装のこと、中国野菜のこと、美食のこと、粗食のこと……。
 飲み下して、またムシャムシャ、モゴモゴやっていると、咀嚼と健康について考えがよぎり、それはやがて健康とは何かという考えになり、病気について、長寿について、そして最後には人生についてまで、あれこれ考えがよぎっていくのである。
 だから余計、食事に時間がかかる。
 70回以上も噛むと、何を食べているんだかわからなくなってくる。
 いや、何のために食べいるのかもわからなくなるのだ。
(食事って何だ?)
(グルメって何だ?)
 そんなことを考えるのだ。
 これは意外で、そして新鮮な発見であった。
 お時間のある方は、ぜひ試してみるといいだろ。
 ヘタな〝哲学本〟を読むより、はるかに哲学的であることに気づくだろう。
 まさに「咀嚼100回、哲学に至る」なのだ。

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