歳時記

とりあえずの健康に感謝

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 資料本の字を追うのがつらくなった。
 老眼が進んだようだ。
 で、いつも世話になっているメガネ屋へ行った。
 検眼が終わって、中年の温厚な店員さんはニッコリ笑って言った。
「老眼はあまり進んでいませんね。遠くは少し見づらくなっていますが」
 朗報のつもりで言ってくれているのだが、私は面白くない。
「こりゃ、老眼が進んでますねェ」
 こう言ってくれれば、嬉しくはないものの、
(やっぱりな)
 と納得するのである。
 ところが、
「あまり進んでいませんね」
 と言われたのでは、
(おいおい、字が見づらくなっているんだぜ)
 と抗議したくなってくるのである。
 たとえて言えば、体調不良で病院へ診察に行ったときの気分と同じなのだ。
「疲れてるんでしょう。何ともないですよ」
 医者にノンキな声でこう言われると、
(冗談やねぇ)
 と反発が起こってくるが、
「血圧が高くなっていますね。これじゃ、頭が痛くなるでしょう」
 こう言われると、
「そうですか、やっぱり」
 妙な心理だが、「悪い」と言われて安心するのである。
(人間、アマノジャクなものよ)
 と嘯(うそぶ)いていたら、友人が入院した。
 重い病気で、検査が続いている。
 友人は、ワラをもすがる思いで、
「大丈夫です」
 という医者の言葉を待っている。
「悪い」
 と言われて〝安心〟するアマノジャクは、結局、心の片隅に健康だという自信があるからだろう。
 傲慢なことではないか。
 これからは、ガタがきた身体ではあるが、とりあえずの健康に感謝して生きていこう。
 友人の回復を心から祈りつつ、そんなことを思うのである。

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