歳時記

自宅にいて、自宅に電話を掛ければ……。

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 原稿の追い込みで、自宅で執筆することが多くなっている。
 自宅だと、風呂に入ったり、仮眠をとったりするのに都合がいいからだ。道場にある仕事部屋は、資料がそろっていて便利なのだが、〝追い込み〟なら、やはり自宅である。
 ただ、私の部屋は2階なので、コーヒーを飲みたくなると階下に降りていかなければならない。カミさんに頼もうとしても、階下では声が届かないし、届いてもシカトされてしまうだろう。
 で、二階からケータイで〝自宅〟に電話を掛ける。
 私の部屋にも子機があるのだが、操作がわからないからである。
 ところが、そのうちカミさんが電話に出なくなった。
(おかしいな)
 と思いつつ、階下に降りていくと、カミさんがお茶などすすりながらテレビを見ている。
「なんで電話に出ないんだ」
「あら、鳴ってた?」
 トボケている。
 で、本日。
 居間でお茶をのでいると、電話が鳴り、受話器が娘の名前を連呼した。
(そうか!)
 疑問は一瞬にして氷解した。
 私のケータイが登録されていて、
「お父さんです、お父さんです……」
 と電話が告げるのだ。
 どうりで、カミさんが出ないはずである。
 考えてみれば、私が携帯電話から自宅に掛け、私が自宅にいてそのコール音も、〝連呼〟も聞くことはない。不覚にも、そのことに気づかなかったのである。
(なるほど……)
 妙に納得した次第。

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