「大衆は真実を求めているのではない。彼らに必要なのは幻想なのだ」
フランスの心理学者であるル・ボン(1931年没)の名言の一つである。
ル・ボンは著者『群集心理』で知られ、ヒトラーもこの書を愛読したと伝えられる。
自民党総裁戦のさなかということもあって、「群集心理」に興味を持ち、書籍を注文した。
まだ手元に届かないが、ネットでル・ボンについて検索すると、
「信念とは不寛容も意味する」
「偉大な信念も、その価値が疑問視された瞬間に簡単に崩れる」
含蓄に富んだ言葉が目につく。
心理学者にして社会学者、物理学者、医者であることから、ものごとを多面的にとらえることができるのだろう。
価値観の多様化の時代において「説得力」とは、視点をどれだけ多く持ち、それをどういう方向に帰納させていくかにポイントがあるということか。
ものを書くうえでも、仏教を語る上でも大いに参考になりそうである。
ヘソの傷もだいぶよくなった。
軟膏を塗ったり、ガーゼで保護したり、治療するのは愚妻である。
「迷惑ばかりかけて、治ったらただじゃおかないから」
私がいちいち文句を言うから、プリプリ怒っている。
そこで、ル・ボンである。
私は内助に感謝し、夫婦で助け合うことの美徳をホメ、病を得ることの不条理を慨嘆し、健康のありがたさ、そしてこれからは健康に留意する生活が大事であると多面的な視点から愚妻に語りかけ、その上で、
「私の一日も早い回復こそ、おまえにとって、もっとも大切なことなのだ」
ここに帰納していく。
だが、愚妻は納得しない。
「ダメよ、ごまかそうとしても」
目尻を吊り上げている。
容易には騙されないのだ。
はやく『群集心理』が届かないかな。
届いたら熟読吟味し、リアリストの愚妻相手にこの方法論を実験してみようと密かに思っているのだ。