歳時記

人生の黄昏は「つるべ落とし」

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 愚妻は今朝もひとりで畑へ出かけた。
 私が畑仕事に復帰するのは10月からという約束になっているからだ。
「お百姓さん」という言葉があるが、愚妻のカンバリはその2倍の「二百姓」である。
 ホメるつもりで、
「おい、二百姓さん」
 と言ったら、すごく怒っていた。
 相変わらず左ヒザが痛む。
 以前、やはりヒザ痛で難儀した愚妻は、大喜びである。
 口には出さないが、
「ザマミロ」
 と、その顔に書いてある。
 愚妻の膝痛に対して、
「何だ、膝が痛いくらいで!」
 と叱咤激励したことを、根に持っているのだろう。
 愚かにも、叱咤激励の「叱咤」にこだわり、「激励」の意がすっかり意識から抜け落ちているのだ。
 年を追うようにして愚妻は元気になっていき、私は衰えていく。
 人生の黄昏(たそがれ)は「つるべ落とし」か。
 老夫婦は、亭主が死ねば女房は元気になるというが、私たち夫婦は、亭主が生きているうちから女房はすこぶる元気なのだ。

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