歳時記

ホームで駅員が駆け寄ってきた!

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 昨夕のことだ。
 都内の某地下鉄駅のホームで、じっと天井を見つめていると、タタタタッと足音がして、
「どうかしましたか!」
 若い駅員が固い表情で駆け寄ってきた。
「別にどうもしませんが、何か?」
 私が驚いて問い返すと、
「いえ、じっと上を見てらしたもので、何かあったのかと」
 駅員が狼狽しながら言った。
 私が天井に不審物を見つけたか、あるいは乗り換えに迷っていたとでも思ったのだろう。
 悪いことをした。
 だが、考えてみると、私は昔から上を仰ぎ見るのが好きなのである。
 空を見たり、ビルのてっぺんを見たり、天井を見たり。
 理由はわからない。
 ただ、好きなのである。
 そう言えば、ある手相鑑定師が、
「人間は仕事や人生に行き詰まると、じっと我が手のひらを見つめる」
 と私に話してくれたことがある。
 手相には〝人生の設計図〟が書かれており、行き詰まると、本能的にそれを見て、解決策を探ろうとするのだそうだ。
 ならば、「上を仰ぐ」のはどういう心理であろうか。
 人間は落ち込むとうつむき、絶望すると天を仰ぐという。
(だから、上を仰ぎ見るのは、あんまりいいことではないのかもしれないな)
 と思いつつ、電車に乗った。
 仕事が溜まって忙しいのに、私は時々、どうでもいいようなことを熱心に考えるのである。

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