日日是耕日

俗にありて、煩悩を耕す365日

歳時記

迷いは「待つ」にあり

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 近年、柔道や空手など武道の試合会場で、音楽を聴いている選手が目につくようになった。
 イヤホーンをかけ、身体を小刻みに揺すっていたりする。かつて考えられなかった光景だが、これが時代の流れというものなのだろう。
 試合前に好きな音楽を聞くのは、緊張をほぐす効果があると言われる。
 確かにそうだろう。
 だが「音楽を聴く」という行為は、音楽によってリラックスするということに加えて、「待つ」ことから生じる不安と緊張感を薄めることに効果があると、私は思っている。
 緊張が「考えること」で増幅されるなら、出番まで「考えない状況」をつくりだせばいいわけである。
「出番」と言えば、スピーチの順番は早いほうがいいと言われる。
 ことに結婚披露宴や祝賀会でのスピーチはそうだ。
 早いとこ〝義務〟を終えてしまえば、あとはゆっくりパーティを楽しむことができるからだ。
 ところが順番が最後のほうだと、そうはいかない。酔っぱらうわけにもいかず、楽しめないばかりか、スピーチが終わるまでは、緊張がずっと続くことになる。
 スピーチに限らず、面接にしろ、プレゼンにしろ、人間は、待てば待つほど神経をすり減らす。
 緊張が持続するからではない。
(トチったらどうしよう)
(仕事を逃したらどうしよう)
 不安が不安を呼んで、時間の経過とともにどんどん膨らんでいくからである。
 ケンカを例にすると、わかりやすいだろう。
 街を歩いていて、いきなり殴りかかられるとする。無意識によける。何がなんだかわからないまま、応戦する。恐怖を感じるヒマはない。
 ところが〝ケンカになりそうな状況〟だと躊躇が生まれる。
(ヤバイな)
(勝てるだろうか)
(あとで仕返しされたらどうしよう)
 思いは千々に乱れ、
「テメエ、叩き殺すぞ!」
 タンカの一つも切られれば、ゴメンナサイになってしまう。
 考える時間に負けるのである。
 だから、スピーチをするときは、スポーツ選手のように〝出番〟までイヤホンをかけていればいいのだが、現実にはイヤホンは無理。
 ならば、どうするか。
 不安が不安を呼ぶのであれば、楽しさが楽しさを呼ぶようにすればいいのだ。
 たとえば、久しぶりゴルフは、ワクワクして前夜は眠れないものだ。
 海外旅行は、行くまでの準備が楽しいのだ。
 ならば、スピーチやプレゼン、面接、クレーム処理など、気が重いものもはワクワクすればいいではないか。
 どうやるか。
 自分が監督になり、自分が主役になり、自分が観客になるのだ。
 たとえば上手にスピーチする自分、トチる自分。どっちに転んでも〝主役〟だと思えばよい。
(さあ、演じてやるぜ)
 と、前向きにとらえるのだ。
「そんなにうまくいくかよ」
 と鼻で笑う人は、自分自身の人生においすら〝主役〟になれない人なのである。

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