日日是耕日

俗にありて、煩悩を耕す365日

歳時記

愚妻は世界一の幸せ者

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 明日の夕方、愚妻は娘と歌手のコンサートに行く。
「明日の晩ご飯、どうするの?」
「食べるに決まっている」
「だから一人で食べに行くのか、何か買ってくるかを訊(き)いているんじゃないの」
「わからん」
 私は正直に答えた。
 かの良寛は、明日の約束について念を押されとき、ポツリとこう答えている。
「死んだら来られん」
 明日のことなどわからないという無常を衝(つ)いた素晴らしい言葉ではないか。
「だからだな、明日のご飯のことなど、いま答えることはできんのだ」
「あっ、そ。じゃ、良寛やってれば」
 バチ当たりなことを言って、駄犬を抱えて階下へ降りていった。
 明日は、当道場の秋期審査会。
 愚妻は、それが終わってから出かけるという。
 ま、たまには娘とコンサートもいいだろう。
 
「で、何という歌手だ?」
「誰だっけ?」
「わしが知るか」
 愚妻は、世界一の幸せ者に違いない。
 

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