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俗にありて、煩悩を耕す365日

歳時記

「麻生発言」で考える「言葉と感情」

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 昨夜、空手の稽古が終わってから、近所の健康ランドへ行った。
 たいていノートパソコンを持参し、ひと風呂浴びてから、休憩室で仕事をするのだ。
 湯船に手足を長々と伸ばすと、気分もゆったりで、
(さあ、やるぞ)
 と気力が充実してくるのがわかる。
 サウナ室で汗をしたたらせていると、汗と一緒にアイデアが出てくる。〝湯水のごとく〟ではなく、〝汗のごとく〟湧いてくるのだ。私にとって温泉や健康ランドは、仕事に欠かせぬ良きパートナーなのである。
 で、昨夜の健康ランド。
 いつものように湯船に手足を長々と伸ばし、気力を充実させてから、サウナ室に入った。
 一昨日、河出書房新社の原稿を脱稿したので、11月20日〆切になっている時代小説のストーリーを練るつもりだった。
 ところが、サウナ室に入ると、テレビは自民党総裁選の番組をやっていて、客のみんなが熱心に見入っている。
 私もテレビに引き込まれてしまう。
 他人のケンカと同じで、政争は見ていて面白いのだ。
(ウーム……)
 と腕を組んで見入っていると、頭は〝時代小説モード〟とはほど遠く、出るのは汗ばかりで、アイデアはまったく出てこなかったが、評論家の指摘に、
(ナルホド)
 と感じ入ったことがあった。
 それは、麻生さん有利の局面が一転、雪崩を打つように福田さんでまとまった背景として、麻生さんの発言――すなわち「小泉さんが自民党をぶっ壊したんだから、我々はそれを修復しなければならない」――という一言にあり、これに小泉さんがカチンときて積極的に福田支援にまわった、というわけである。
 なぜ、この指摘に私が「ナルホド」と思ったかと言えば、
「当たり前のことであっても、それを口にすると、人間関係においてトラブルになる」
 ということを再認識したからである。
 周知のように、麻生さんは「反小泉」のシンボルだった平沼氏を復党させ、小泉改革路線からの転換を鮮明にしようとした。
 その麻生さんが「小泉さんに壊された自民党を修復させる」と発言するのは、当たり前のことなのだ。
 当たり前にもかかわらず、これに小泉さんが怒った――とされる。
 ここが人間心理の面白さだと、私は思ったのである。
 たとえば、客観的に見てブ男に、
「おい、ブ男!」
 と言うと、怒る。
「なんで怒るんだ、ホントのことじゃないか」
 と言えば、もっと怒る。
 つまりホントであっても、本音であっても、そうであると相手が承知していても、いざ言葉として発せられればトラブルになる、と言うわけである。
 ことほどさように、「言葉」とは重いものだ。
 人間が「言葉の生き物」と言われるのは、「言語でコミュニケーションを図る」という機能的な意味よりもむしろ、「言葉をどう発するかによって、良好な関係になったり、険悪な関係になったりする」と、私は解釈するのである。
「おまえ、いいヤツだけど、バカだな」
 と言われるのと、
「おまえ、バカだけど、いいヤツだな」
 と言われるのとでは、受け取り方はまるっきり変わってくる。
 これが言葉の面白さであり、怖さだと、サウナ室で総裁選のテレビを見ながら思った次第。
 そんなわけで、番組がなかなか終わらず、汗はいつも以上に出たが、ストーリーのアイデアはまったく出てこないまま、ノートパソコンを起動することなく帰宅したというわである。

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