日日是耕日

俗にありて、煩悩を耕す365日

歳時記

秋に果実を穫りたければ、春に種を蒔け

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「蒔(ま)かぬ種は生えぬ」
 これは高校時代に、私が担任から言われた言葉である。
「もっと勉強しろ」
 と諭してくれたわけだ。
 だが、私は、
「先生、タンポポを見てよ。種なんか蒔かなくても、ちゃんと咲いてるじゃないの。種は風で飛んでくることもあるんだから」
 減らず口を叩きながら、空手をやったりエレキバンドを組んだり。遊びながら種が飛んでくるのを心待ちにしたが、結局、この年の大学受験は全部落っちてしまった。
(やっぱり、種は蒔かなきゃ、花は咲かないんだな)
 と反省したものだが、ズボラな性分は死ぬまで直らないようで、いまもって「風で飛んでくる種」を待っている次第である。
 空海の教えに、こんな言葉がある。
《春の種を下さずんば、秋の実いかに獲ん》
 春に種を蒔かなければ、秋に実を穫ることはできない――という意味で、まさに「蒔かぬ種は生えぬ」ということを説いているわけだが、この教えを私流に言い換えるなら、
「秋に果実を穫りたければ、春に種を蒔け」
 ということになる。
 すなわち――私のような怠惰な人間が言うのもヘンな話だが――志を抱き、それを成就させたいのなら、早い時期から種を蒔く努力が必要だ、ということである。
 人生は気まぐれだから、タンポポのように種が勝手に飛んできて、気がついたら花が咲いていた、ということもあるだろう。
 だが、それは、宝くじを買うのと同じで、
「誰かが当たるが、それは決して自分ではない」
 ということなのだ。
 それを悟ってなお、私はタンポポの生き方を変えられないでいる。
花が咲かないはずである。 
 

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